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エレベータに乗り込むと、最上階のボタンを押す。
「真里谷、エレベータ動かして。遊馬も一緒だよ」
エレベータの防犯カメラに話しかけると、エレベータが動き出していた。
最上階は、真里谷の部屋だけだった。エレベータを降りると、直ぐに玄関となっていて、扉は一枚しかない。
「入ってきなよ」
ドアの向こうから、声が聞こえてきた。
「遊馬、久し振り」
全身黒い服の真里谷は、死神のようにも見えた。
真里谷が遊馬に抱き付こうと、両手を広げて近づいて来たが、遊馬が避けた。
「覚悟が無いのに、来たのかな?」
セクハラの親父と罵りそうになったが、ぐっと我慢した。俺が入ると、話がややこしくなる。
「愛斗、ちゃんと愛斗だと親に名乗ってくれ」
広いリビングのソファーに、真里谷が座り込んだ。
「俺のメリットはあるの?」
自分の親に会うのに、メリットが必要なのか?
広いリビングの奥は、寝室のようだった。生活臭は全く無く、まるでモデルルームのようだが、そこに飾られている遊馬の写真だけが現実感を出している。
「何のメリットが欲しい?」
真里谷が、口元だけで笑った。
「遊馬が欲しい」
窓の外には、街が見えていた。表の通りで、轟音が鳴る、今、事故が発生した。
「俺の何が欲しい?」
「心と体」
シリアスな場面なのだろうけれども、聞いていた俺が、台詞に照れてしまった。なかなか言えない台詞だ。
「一つだけなら、あげる」
真里谷が固まった。見開いたままの黒い瞳と、開いたままの口。遊馬に駆け引きができるとは思っていなかった。
「こころ…」
心と体、どちらか一方だけしか手に入らないなんて、そんな辛い恋はないぞ。
「分かった」
真里谷がぐったりとしていた。一瞬の迷いだったろうが、体を取るのかと思った。
「俺と、時々は会ってくれ。話しかけてくれ」
真里谷、どこまで遊馬に飢えていたのだろうか。初めて少し同情した。
「ちゃんと名乗るな?」
「約束は守る、けれど準備が必要だろう」
真里谷は約束通りに、自分が愛斗であることを告白した。連れ去り犯として、年配の女性が警察に逮捕された。死んだ子供の代わりに育てたという設定で、真里谷家にはその後、養子で入っていた。
「俺は、阿久津 愛斗でした。けれど、戻るつもりはありません」
真里谷家で育ったので、もう阿久津家には戻らないと、本人は告げた。
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