第1章

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 泣き崩れる両親を見ても、真里谷の心は揺らぐことも無かった。遊馬に対して冷たかった、両親など要らない。 「名乗ったぞ」 「ああ、良かった。これで、愛斗を探す役目から解放される」  遊馬は、部屋の荷物をまとめていた。 「どこに行く気だ?」  阿久津の両親が慌てていた。 「愛斗君は見つかりました。今度は俺が消えます。貴方たちの望み通りに」  いつも、消えたのが遊馬だったらと言われてきたのだ。  ……。 「事情は今の説明で分かったけど」 「で、何故ここに?」  俺と直哉は顔を見合わせた。遊馬、御形の家に引っ越ししてきたのだ。しかも、俺と直哉の部屋に来た。  御形の両親も困っていたが、見捨てられない家系のようだった。 「真里谷が体と言えば、真里谷の家に行くつもりだった。心だから、体は自由になった。ここに暫し置いてくれる」  御形の母親が、阿久津の親を説得して、どうにか丸く収まりはした。  御形には真里谷も入っては来られないが、俺の羽はまだ復帰には時間がかかる。結界が万全の状態ではない。  同じ高校の四人が、同じ家で暮らしている。毎日が、合宿のような雰囲気になってしまった。俺は、遊馬と同居することにより、あれもこれもバレてしまった。  俺の親が、本当に霊能力者であること。俺が霊は全く関知できずに、偽霊能力者であること。直哉は従兄で、おなじく霊が全く関知できないこと。  バイトで生計をたてていること。一番困ったことが、遊馬、俺の翼が見えていた。 「手羽」  あるとき遊馬の口が滑ったのか、俺の翼を手羽と呼んでいた。 「手羽先のようだから」  慌てて言い訳をしていたが、言い訳よりも見えていたことが問題だった。 「見えていたの?」 「最初から、学校でも」  学校で見えている人が居たとは、全く考えたこともなかった。 「他にも、見えた人は居るかな?」 「さあ」  遊馬は、手羽になった経緯にも気が付いているようだった。 「やさしいよな、黒井。他人の為でも一生懸命でさ。学校でのクールな姿が、今は微笑ましいよ。無理しているなって分かって」  遊馬、もっと大人しい性格なのかと思っていたが、結構喋る。  御形は、遊馬の同居のせいで、もの凄く不機嫌になった。 「しかし、黒井って綺麗だな。どこもかしこも」  御形が過剰に反応するのを、遊馬が笑って見ている。 「どこもかしこもって、どこまで見たの…」 「一緒に風呂に入っているだろう」
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