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直哉も御形をからかう。
「御形も学校とは違うよな。完璧な二枚目キャラクターだと思っていたけど、結構、ロマンチストで甘えん坊」
遊馬の観察に、俺も笑ってしまった。よく見ている。
ただ、何でもない日々というのは、長くは続かないものだった。
第六章 クロスドール
御形家、真里谷は入って来られない筈だったのだけれど、盲点があった。真里谷、本体?が来客として来るのならば、普通に中に入れてしまう。
学校から帰宅すると、居間に真里谷が居て、俺は驚いて部屋に逃げ込んでしまった。
「典史ちゃん、来客よ」
真里谷、俺宛に来ていたのか。渋々部屋から出ると、居間に向かった。
「黒井、遊馬はまだ学校から帰って来ていないよな」
部屋に真里谷は入れたくなかった。
「帰ってないよ」
御形が茶を持ってきて、俺の横に腰を降ろした。
「何か用なのか?真里谷」
御形が、俺の代わりに喋ってくれていた。
「心、貰いに来た」
「時々話すようにはなったろ、焦らずに、信頼を得ていったらいいだろう」
真里谷の表情が曇っていた。
「そうするつもりだったけど、時間が無くなってきた。俺、一か所に長く住んでいられないのさ。周囲を殺してしまうから」
真里谷は、本人が望まなくても、周囲を巻き込み滅亡させてしまうのだそうだ。今回は、宗教法人で分裂があり、集団自殺の可能性が浮上していた。
真里谷が止めようと動くと、反対勢力側に事故が発生する、黙って見守る他はない。
「自殺はさせるつもりはないよ」
色々、手は打っているそうだ。こうやって話してみれば、真里谷の存在は憐れにも思える。
「養父母は事故死するだろうから、保険金が入る。金だけはあるけどな」
やっぱり悪だ。
「それで、遊馬をどうする?」
「別れの言葉を言いにきただけだ。別れと言っても、暫く会えないだけだけどな。必ず迎えに来るから、頼む、遊馬を守っていてくれ」
遊馬本人が、その言葉は聞いていた。
「愛斗、俺のどこがいいの?」
多分、分かっていないのは遊馬本人だけなのだろう。真里谷、遊馬のことだけは、本気なのだ。
二人きりにした方がいいのか?見守っていた方がいいのか?御形の顔色を窺うと、二人きりという結論が出ていた。
「俺達は、席を外す。二人で話し合え」
去り際で既に、真里谷が遊馬に手を伸ばしていた。話し合いになるのか?振り返りたいような、見てはいけないような。
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