第1章

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 遊馬も一緒に逃げてくれたのだけど、とある橋で追い詰められた。橋の両側から挟み撃ちになり、川に飛び込んでしまった。直ぐに救けが来たのだけど、遊馬は目を覚まさなかった。目を覚まさない遊馬を抱えての逃走は、困難を極め、遊馬が殺されそうになった。そこで、心と肉体を分離し、両方を安全な場所へと送った。 「…又、橋か…」  橋には色々思う事があるが、又、飛び込んだのか。よく考えて飛び込んで欲しい。 「俺の所が、安全な場所?」  俺の所が安全な場所なのか?俺は、霊が見えないのだから、人形が生きていることに、気付かない可能性もある。 「直ぐに、遊馬だと分かっただろ?」  真里谷にも苦肉の策だったのだろう。 「作る筈だった過去の人形を呼び寄せた。この人形ならば、遊馬が安らかに眠っていられるだろう」  どこまで、人間離れしているのだろうか、真里谷。 「愛している気持ちが消せないのならば、俺という、この存在はダメかもしれないけれど、少しの間でも遊馬と過ごせて幸せだった」  決して善にはならない存在だと、玲二から何度も言われていた。それは分かっている。 「恭輔、居るか?」 「はい」  俺の守護霊の恭輔を呼んだ。 「人形の中の魂を起こせるか?」  恭輔の気配が消える。俺は、自分の守護霊であっても姿を見る事はできない。 「今すぐは無理だな。魂に傷がある」  今すぐでなければ、目覚めさせられるということか。 「恭輔、存在悪というのは、抑えられるか?」 「そこの人のことを言っているのか?可能性はあるよ。別世界ならば、守るべき別世界のルールがあるだろう。ここのルールを少し変えればいい」  恭輔、気配だけだが、頭を撫ぜてあげた。 「自分に降りかかる不幸に変えるのさ。俺が、溶けたように、自分の幸福の代償を自分で補う」  恭輔の死を思い出すと、今でも涙が出てくる。恭輔は死体もなく、ただ消えてしまったのだ。 「俺を狙う奴を遠ざけたら、考えておく」  真里谷が立ちあがった。 「遊馬を頼む」  真里谷は玄関から出て行ったが、玄関の先で直ぐに消えた。  遊馬人形を見て、又、御形の母が、かわいいと大騒ぎしていた。一穂には何か感じるものがあるのか、初めましてとあいさつをしてから、握手を交わしていた。 「どこに置こうか?」  俺の結界も弱まっている。しかも、普通の人間ならば、玄関から入れる。
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