第1章

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 結界か、羽が生え変わるまで我慢しようと思っていたが、使えるようにしよう。  俺は庭に出ると、翼を広げた。霊体ならば、翼を広げても物にぶつかるということは無いのだが、気分的に外の方が広げ易かった。  翼を広げると落ちる光を、鯉が食べていた。おいしいのかは不明だが、まるで生肉を投げ入れられたピラニアの映像のように、鯉が光に群がってくる。  翼を引き抜き空中へと消し去ると、暫し翼の無い状態になる。翼が無いと危険となるのか、もこもこと背中から、予備の翼が生えてくる。しかし、予備の翼は、緊急時仕様なのか、とても小さい。手のひら二枚分の翼といったところだった。  ちゃんとした羽の準備が出来たら、又、消して生やし直すしかないが、これで結界が強化できる。 「…ひよこ?」  御形が一部始終を見ていた。 「どうして直ぐに羽を変えなかった?」 「痛いのからだ、翼を抜き取る時が。乳歯が抜けるってあるだろ、そんな痛みで、規模が、腕が抜けるというくらいの痛さ」  一穂も寄ってきて、背中の羽を気にしていた。 「ピヨ」  羽に変なニックネームを付けられてしまった。手羽の次は、ピヨだ。 「でもこれで、結界が貼れる」  遊馬を守ろう。そうしなければ、俺が真里谷に殺されるし、何より俺が遊馬を守りたい。  遊馬の魂の傷も気になったが、魂の傷は自身で治すしかないだろう。  遊馬人形は、御形の母に気に入られてしまい、着替え、散歩と連れ歩かれていた。  しかし、人形を狙う何かもあるようで、俺の部屋に誰かが入った形跡があった。過去視で見てみると、知らない男女で、部屋で何かを探していた。  学校で見た、中身の違う遊馬も狙われているようで、腕や足に怪我をしていた。真里谷も怪我をしているのかもしれない。  こんな時、自分は無力だった。 「真里谷、無事のようだ」  直哉の千里眼で、真里谷の無事を確認する。 「なあ、典史」  直哉と部屋を出て、庭でしゃがみ込む。部屋に居ると、深刻な話となった瞬間に、御形がやってくるのだ。盗聴器でもあるのか?と勘繰るが、感だけの行動らしい。 「遊馬は幸せかな?」  それは本人しか分からない。池の鯉が、俺に近寄ってきた。御形の家の庭は、まるで公園のように広い。
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