第1章

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 姉二人は、人形に関与していない。遊馬も人形に嫌がらせ?するような性格ではない。では誰が、人形を持ち出しているのだろうか?人形が一人で出歩くとは、到底考える事ができなかった。  残っている二体に触り過去を見ようとすると、電気が走ったような痛みがあった。人形に拒否されている。こんなことは初めてだった。直哉も、人形から千里眼を発動させよとして、後ろに倒れた。 「殴られたような感じ」  直哉が額を押さえて、起き上がった。 「人形か?」  直哉も首を振る。人形にここまでの力は無いだろう。これは、生きている人間、しかも何か強い力を持った者が介入している。  俺は霊が見えないし、感じないが、生きている人間というのも厄介だった。 「否、制服の後姿は見えた、けど、それ以上は見せてくれなかった。人間だ」  少なくとも俺達は、普通の人間ではない。その存在を払える程の力の持ち主がいる。  人形を持ち込んだ親子の願いというのは、人形だけでも兄弟姉妹仲良く一緒に居たいというものだった。その些細な願いが、どうしても出来ないのだそうだ。 「人形は持ち帰り、いつも通り棚に鍵を掛けて置いてください。愛斗君の愛用品と、愛斗人形の着替えの服と、遊馬君を貸してください。人形を探します」 「着替えがあると、どうして分かりました?」  しまった、記憶の中で服が変わっていたので、着替えがあると予想したが、説明では聞いていなかった。咄嗟で、嘘が出てしまうのは、偽霊能力者で鍛えた技だ。詐欺師技とも呼んでいる。 「この二体の服が、本格的な着物に仕立ててあったせいです。他の服もきっとあるのだろうと予測しました」  適当だったが、どうにか納得してくれた。遊馬が持ってきてくれるそうだ。  兄弟のように育っているのだろうに、遊馬の存在が希薄に感じた。そこが、どうにも引っかかっていた。  その日の午後、遊馬が訪ねて来た。御形の父は、法事があるとかで出かけてゆき、直哉もデートがあると出かけて行った。  遊馬と会ったのは、俺と御形の二人となった。 「噂だけかと思っていたけど、黒井は本当に御形の家に下宿していたのか」  含みも勘ぐりもない、遊馬の言葉だった。 「直哉も住んでいる。俺達、親が霊能力者だから、学校側も親と離れて暮らす事には、賛同している」  霊能力者は、職業とすると余りにも胡散臭い。親から悪い影響を受けていると、周囲の皆が思うのだ。
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