第1章

40/55
106人が本棚に入れています
本棚に追加
/55ページ
 存在悪が、恭輔に似ていて、直哉も真里谷が気になるのだろう。直哉は、恭輔と兄弟であったことに不満も何も無かったと言っていた。兄弟で良かったと、心から思うとも。直哉も人間の規格からは外れていた、分かり合える者を近くに与えられて、感謝している。俺も、恭輔と直哉が従兄だったことに、感謝している。 「自分で選んだ道なのだろう」  でも、確かに遊馬に、真里谷と歩む道は勧められない。命がけだ。 「恭輔がさ、遊馬が泣いていると言う」  恭輔は、人形の中を見てくることができる。 「真里谷の件をどうにかしないと、遊馬を出せないよな」  真里谷を助ける、俺と直哉の行動が決まった。  まず、御形に真里谷の対抗勢力の詳しい情報を貰った。ほとんどが、真里谷に関わって家族が亡くなったという過去を持っていた。  ひとつ分かっていることは、真里谷に関わっていたとしても、真里谷が殺したのではないということだ。 「行くか?」  何があったのか、本人に聞きに行こう。 「御形はどうする?」  出来る事ならば、御形はここに残っていて欲しい。  御形の家は、由緒ある寺だ。俺達だけならば。胡散臭い霊能力者で済む。問題を起こして、御形の家の迷惑になってはいけない。 「置いてゆこう」  御形の目を盗んで、家を飛び出す。向かった先は、真里谷の対抗勢力が揃う、被害者の会だった。  被害者の会は、駅からはかなり離れたビルの一室にあった。ドアには、簡易的な看板が掲げられ、人が集っていた。近くに時間制の駐車場があり、そこから又人がビルに向かって歩いてきていた。今日は、集会の日だったのかもしれない。  そっと会員の揃う部屋を覗くと、壁には大量の写真が掲げられていた。その写真の前で、泣き崩れる女性が居た。 「恭輔、どこに霊が居る?」  恭輔が、右の写真の前、パイプイスの横と、目標物の名前を告げる。少しずつ灰を飛ばすと、実体化してゆく霊に、悲鳴が響き渡る。 「もう少し」  喋るようにしなくては、会話ができない。 「お母さん」  泣いている女性の前に、若い娘が現れた。淡いブルーのワンピースに、長い髪。写真と同じ服装だった。 「どうして死んでしまったの」  女性が霊に縋り付いて泣いていた。 「私が死んだから、この会に入ったの?生きている内に、どうして分かってくれなかったの?」  親子喧嘩が始まっていた。
/55ページ

最初のコメントを投稿しよう!