第1章

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「多分、俺は自分の能力を封じた。代償として、遊馬から俺の記憶が消えた。力を封じる代償は、自分の記憶が他者から消えること」  遊馬から真里谷の記憶が消えた筈なのに、時折、遊馬に真里谷の記憶が戻る時があった。そして、傷ついている魂のせいなのか、別人になり、姿を消すときもある。別人になった遊馬は、真里谷と同じ力を使用することができていた。  真里谷の封じた能力と悪が、遊馬に乗り移るようになっていたのかもしれない。 「真っ先に、俺達から真里谷の記憶を消したらよかっただろ」 「記憶を消す人間を、選べない…」  真里谷が本気で遊馬と生きて行こうとしていたのは、分かった。しかし、遊馬は学校でも見かけたが、普通に遊馬だった。  そして、遊馬人形からは、魂を出そうとしでも、出せないのだ。 「遊馬人形を、遊馬がもう関わらないようにしたからな。そこに在るように見えても、もう別世界に飛ばした物だ」  世界が異なれば介入ができない。ならば、ここに入っている魂も救済できない。 「異世界の人形に入ってしまった魂は、俺にも助けられない」  真里谷がきっぱりと言い放つ。 「でも、遊馬は助けてくれ」  真里谷が呟く。俺も、遊馬を助けたい。 「俺は自分の力を封印している。遊馬のための封印だったのに…」  真里谷は、立ち上がると歩き出した。下の部屋で声を掛けると、家まで車を出してくれるという。  途中、被害者の会のビルの前を過ぎると、部屋が真っ暗になっていた。活動しない日もあるのかと、見過ごそうとして、ふと遊馬の姿が見えた気がした。  車を止めて、ビルの中に入ると、誰も居なかった。しかし、内部のパソコンの電源は入っていた。鞄も幾つも残っている、ハンガーにかかった上着も沢山在った。  人だけ消えてしまっていた。  何人、消してしまったというのだろうか。ここには、家族も友達も居る幾人もの人間が居たのだ。  阿久津家に向かう道中、真里谷は一言も喋らなかった。  阿久津家の居間で待っていると、何でもないように遊馬が帰ってきた。 「御形、黒井、来ていたのか」  遊馬の、心が温まる笑顔。どうしょうもなく、俺は遊馬に惹かれた。多分、遊馬の中に、抱えきれない程の孤独をみたからだ。 「遊馬、俺と行かないか?」  魂を救いに、異世界とか別世界とか、そんなところまで。
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