第1章

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 いつか、遊馬人形から、遊馬を出してあげられる日が来るかもしれない。  天使の最後の加護を遊馬へ。俺は、ピヨと呼ばれてしまう小さな翼を広げると、引き抜いた。 「痛ってえ…」  その翼を、遊馬人形の背に付けた。どんな威力があるのかは分からないが、どの世界に行っても、この羽は光になる。  遊馬の闇の心が解けたなら、光を思い出して欲しい。 「俺が死ぬ時は、この人形の中に入り、遊馬も殺してやるよ」  真里谷にも優しさがある。  真里谷は、遊馬人形を抱えて、闇へと消えて行った。  数日後、遊馬が行方不明になったと、学校で噂になった。  翼は元の大きさのものが、ちゃんと生えてきた。もう、手羽でもピヨでもない。  真里谷は、意外にもちゃんと高校生をやりだした。どういう心境の変化なのか、分からないが、真里谷なりに一生懸命に生きている。 「黒井、浮気したじゃないか」  通学の電車の中。御形が、俺と遊馬のキスを根に持っていた。浮気よりも、本気だったと言ったら、火に油だろうか。  顔を背けて、本を読むふりをすると、御形が映画のチケットを出してきた。御形、詫びを入れるのは俺の方ではないのか?御形が折れてどうする。 「母さんが、映画でも見てこいってさ」  多分、俺の元気がないからという理由なのかもしれない。遊馬の件で、俺は、迷いが沢山できていた。俺が係らなければ、ここまで失うことは無かったのではないか?自分の行動が、最悪を呼んでしまったように思えた。 「映画の後は、美術館に行こう」 「美術館?」  俺が唯一苦手な科目、美術。正確か正確ではないかは分かるが、美しいなどという感覚は全く理解不能だった。 「美術館は止め」  電車が揺れて、御形にぶつかる。御形が、俺の腕をしっかりと掴む。周囲からキャーという、悲鳴が飛んでいた。電車の揺れは、悲鳴が出るほどではなかった筈だ。見回すと、俺と御形が視線を集めていた。 「じゃ、映画はいいということだな」  そういうことにしておこう。 「動物園にも行こう」 「小学生かよ…」  電車が到着し、ホームに降りる。 「黒井と、沢山、同じ物を見たい。一緒に笑いたい」  やはり、御形に嘘は付けないのかもしれない。駅から出ると、俺は立ち止まった。 「俺、遊馬に惹かれたよ。理由は分からないけどさ、ずっと一緒に居たかった」 「分かっていたよ」
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