第1章

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「そうだね、でも、親とは仲違いしているわけではないのだろう」  遊馬に色々聞きたい事があったのだが、こっちが質問されてしまっていた。御形は、黙って遊馬を見ていた。御形、霊は見えるが、今日の遊馬は生きた人間だ。俺にも見える。  御形の母が、カステラとジュースを持ってきた。御形の家の来客用のおやつは、いつもカステラだった。 「母とは日々、連絡を取り合う。父とは全くダメだ。姉とは、親の情報と家の情報を共有するという意味ではよく連絡する。姉とは十歳離れているから、向こうもコミュニケーションは取り難いと思う」  でも姉は、家業もするが有名な占い師になっていて、時折、天使の羽と引き換えと言いながら、服や鞄や靴、小物などを買って持ってくる。親と離れて自活しているので、余計な物は買えないのだろうと、姉なりに心配はしているらしい。しかし、姉の持ってくる品々は、どれもかなり派手だった。 「それは分かるよ…」  遊馬の表情に影が落ちる。遊馬、父親は再婚して、母違いの弟妹はいるらしい。 「しかし、芳江さんが相談した相手が、御形だとは思わなかったよ」  明らかに遊馬、自分の家庭の事には踏み込まれたくないらしい。無理に話題を変えてきた。 「俺が知りたいのは、愛斗ってどんな子供だったかと、阿久津の家のこと」  本当は、人形を通してやってきた、強力な存在が何なのか探りたかった。   居間でくつろいでいる遊馬には、時折、暗い影が射すが、他はいたって健全な高校生のように見える。  先に出していた、遊馬の茶を取り換えるふりをして過去を見た。母に死なれた寂しい子供で、阿久津家にもそう馴染んではいなかった。それに、心に深く刺さっている言葉があった。 『愛斗ではなく、お前が居なくなっていたならば問題は無かったのに』  祖母の言葉だ、多分悪気はなかったのだろう。しかし、子供に言っていい言葉ではない。 他にも多数から、同じような言葉を掛けられていた。  でも、だからこそ深く、愛斗を探すという思いも抱えていた。 「忙しい家だよ。朝から晩まで、忙しい」  遊馬の横に、漆黒の影が見える。これは、何なのだろうか?俺は千里眼を持っていないので、天使の羽を広げた範囲にある、遊馬から感じる強い思念だけしか分からない。 「最近、誰かと知り合った?」  人形は度々無くなった。それならば、最近ではないのかもしれない。
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