第1章

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 ミニカーのコレクションも横にある。恐竜の模型は、昔、恐竜の骨を発見するのだとハマり、骨一本一本の形状を暗記していたのだ。見たら直ぐに何の恐竜か分かるように、などと考えていた。 「黒井って普通だったのか…」  今まで何だと思っていたのだろうか。気になるが、聞かないことにした。 「今度があったら、俺達が山の中に造った秘密基地と、ハックルベリーの家を見せてやるよ」  霊を相手に仕事するようになったのは、最近のことだ。その最近だけで、色々在ったが、その前は、親の家業を抜かせば、ごく普通の生活だったと思う。 「コーラならあるけど、飲むか?」  御形の家は、基本お茶か、果汁百パーセントだ。コーラは無い。冷蔵庫の中身は見せられないが、ビールも常備冷やされている。玲二が勝手に入り冷やしてゆくのだ。 「コーラでいい」  一階から犬の鳴く声がしていた。俺の家は犬を飼っていない。 「もこもこ!」  吠えていた犬は、幼馴染の宗像が飼っている犬だった。俺は、一階で靴を履くと、外に飛び出した。 「もこもこ!久し振り!」  中型犬の大きさで、ライオンのような色とたてがみがあった。くしゃくしゃにたてがみを掻き回すと、もこもこがマジ切れする。咬みつかれる前に仲直りで、耳の後ろを撫ぜる。 「俺に挨拶は無いのか?」 「宗像、久し振り」 「もこもこと、声のトーンが違うけど」  まあいいかと、宗像がもこもこのリールを渡してくれた。 「宗像、今日は、どうした?」 「祖母が、ここに相談事でさ」  宗像の祖母は、よく俺の祖母と話し込む。旅館という、客商売のせいか、ストレスが溜まるようだ。声が聞こえたとか、影が見えるとか、宗像の母親を困らせる。 「もこもこが居るのに、霊なんて来ないよな」  もこもこは、狛犬だ。神社の前に居た、番犬のようなものだった。  山の中腹の神社への肝試しがあり、その時、神社の鳥居に繋がれていたのが、もこもこだった。  次の日も次の日も。繋がれたままになっていた。俺は家に連れて帰り怒られ、見かねた宗像の家が引き取った。  もこもこが、狛犬だと気付いたのは、それからかなり後だが、その時の経緯は抜きとして、もこもこを見つけたメンバーは、同じ秘密を共有したせいか親友になった。その関係は今でも崩れてはいない。 「なあ、黒井。今度泊まりに来いよ、あっ、そっちの友達も一緒でいいから」  後ろに、睨んでいる御形が居た。
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