第1章

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「ばあちゃん呼んでいるから、帰るな」  宗像がもこもこを連れ、走って行った。 「なあ、御形…」 「気になって、行きたい訳だな」  見通されている。そもそも、狛犬のもこもこが居る中に、霊は存在しない。一体何が、宗像の家に居るのだろう。 「温泉旅館か、いいかもな」  意外に御形は、風呂好きだった。  温泉旅館に行きたいと言うと、御形の家族も行くと言い出した。俺の実家の近くで、日帰りの範囲なのだが、一泊で行くと言って譲らなかった。 「来ても、俺の家は見学させませんよ」  観光コースに俺の実家が含まれていた。俺の実家には見学コースはない。 「どういう風に育ったのか、志信の話を聞いてね、安心しちゃってね、実際に見たいの」  御形の母のお願いには非常に弱い。毎日、おいしい食事を作ってもらっているせいもある。  俺の実家の見学はさておき、宗像の旅館に全員で泊まりに行った。  部屋は三部屋予約した。御形の姉は、現在都心で暮らしているので来ないとして、俺と御形と直哉、御形夫婦、祖父と一穂。広間一つでもいいと主張したようだが、生憎、広間は予約が入っていた。  四方を森に囲まれた、一軒宿だが、純和風のとても綺麗な造りで、外国人もやってくる。  基本平屋建築だが、斜面の部分と、生活している空間は二階屋となる。  俺は、宗像の部屋に向かっていた。御形と一穂が付いてこようとしたが、この旅館、平屋だが、中庭や食事処と離れなど、様々な建屋から成り立っている。  初心者では、地図を見ながらでないと移動できない。  御形と、一穂をまくのは簡単だった。しかし、直哉は千里眼と透視機能付きなので、迷子とは無縁だった。 「直哉、ここ手作りアイスってのがあるのだ。料理長に聞いてみるといい。おいしいと褒めまくれば、そっと出してくれる」  直哉は口でまくしかない。それは、霊が見えないのに霊能力者をやっている、詐欺技の発揮となる。ちなみに、アイスは直哉の好物で、料理長は客に頼まれると弱く、何でも作る癖がある。 「宗像、声とか影って、どこに出るの?」  やっと、宗像の部屋に辿り着くと、そこには懐かしいメンバーが居た。 「志島、高梨、野田…その他、結構居るけど、何の集まり」 「その他は、ひどいな…」
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