第1章

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「ごめん訂正、家に遊びに来る友達は居るか?」  遊馬が、窓の方を向いた。 「その友達が、人形を盗んだというのか?」  そうは言っていないが、そう捉えられる言い方だったかもしれない。  でも、遊馬の様子が変だった。必死で庇っているような、確信を持っているような。 「遊馬も、その友達を疑ってしまったのか…」  辛いなと、心から思う。遊馬は、俺と似ているところがある。絶対的な孤独。そんな中で、手を差し伸べてくれた友に、裏切られたと思うことは辛い。 「真里谷(まりや)という奴で、中学時代のクラスメートだ。転校生だった。何故か俺に興味を持っていて、理由を付けては一緒に居た。家に来るようになってからは、どこか愛斗に似ていると、芳江さんも直ぐに馴染んだ」  遊馬は下を向いた。 「それだけじゃないのだろ?」  御形が口を開く。 「ああ、中学の卒業式の日、付き合って欲しいと言われた。俺が断っても、しつこく言ってくる。電話で、もう会わないつもりだと告げたら、人形が無くなった」  遊馬の表情に嘘は無い。しかし、自分の事を棚に上げて言うならば、真里谷は名字で、多分、男なのだろう。俺も御形でよく分かったが、男に告白された時の衝撃は大きい。恋愛対象から外れていたもの、考えてもみなかった事が迫り、方向転換を余儀なくされるのだから。 「真里谷に連絡を取ろうとしたら、連絡の方法が無くなっていた」  人形は幾度も無くなったと、言っていた、犯人は真里谷だけではないのかもしれないが、今回の犯人の可能性は高い。 「真里谷、探してみるよ」  真里谷を探す。それは思っていた以上に、難しかった。直哉の千里眼を使用しようとしたが、真里谷という人物を特定する何かが欠けていた。目標地点が無ければ、千里眼を使用できない。  行ったと思われる高校を探してみたが、入学した痕跡すら無かった。住んでいたという家を訪ねたが、そこに住んでいた痕跡は、全く無かった。  中学は一緒だったという遊馬の言葉を信じ、中学関係で探してみたが、真里谷を覚えているという人間が一人も居なかった。  真里谷の存在は、阿久津家の記憶の中にしかない。 「苦戦しているな、黒井」  部屋のテーブルで、遊馬の中学時代のアルバムを見ていた。遊馬の記憶の中では、真里谷と撮った写真がある筈だと言っていた。けれど、探しても無い。  御形が横に座れば良いのに、俺の後ろに座り抱き込んでくる。
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