第1章

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 どこをどうしたら、そういう思想になるのだろう。俺は、本来、男は恋愛対象外だ。 「あのな、俺は、男は恋愛対象ではない。御形が別格なだけだ」  御形が、もの凄く赤くなった。俺は、又、何かまずい事を言ってしまったのだろうか。 「…分かった。俺も、真里谷を調べる」  阿久津の人形三体を並べる。それだけのことの筈なのに、何故か、予想しなかった困難ばかりがくる。  夜、直哉と一緒に占いのアルバイトで、春日 蓮(かすが れん)の居る、占いの館に来ていた。俺は、蓮の父のところで、修業をしていた経緯で、蓮とは昔からの知り合いだった。  ちなみに、蓮の本業は、大学生だ。  赤のビロードのカーテンの裏で、俺は客の過去を見る。直哉は、千里眼で物を探す。今日は、さっさと客を捌き、蓮に真里谷の存在を相談したかった。 「行方不明の息子」  直哉が現住所までを細かくメモに書き渡す。俺は、息子が家を出てゆくまでの経緯を、メモで渡す。要するに親子喧嘩を通り越し、分かり合えない関係とまで息子が思い詰めただけだ。占いに来るより、相手を見ることが大切だ。蓮が客に諭す。  次の客。 「仕事を続けられない」  俺達には無理。奥で、ポテトチップを食べながらくつろぐ。 「娘の結婚相手」  どういう件まで、占いで解決させるつもりなのか?と思ったが、過去を見てみると、悩む気持ちが良く分かった。娘は車椅子だった。その娘を選んでくれた相手には、感謝するが、親は不安でたまらない。  俺達には未来が見えない。多分、見てはいけないものなのかもしれないが、でも、最近は世界が見える。  この生命力に溢れた人間の世界は、実は暗い闇の中で、自らの光で生活している天使にとっては、太陽の中のようだった。人間は、人間という強さと温かさの中で、生きている。そして、生命力は光だ。  娘を信じることしかないだろうな。娘の状態のメモを、直哉と二人で渡した。  これで、最後の客だ。真紅のマントに仮面という出で立ちの蓮は、雰囲気演出のランプの火を消し、電気を付けた。 「何だよ、お前ら。俺に相談か?代金を取るよ」  何だかんだ言いながらも、蓮も甘い。真剣に真里谷の話を聞いてくれた。 「危ない存在だな、真里谷。俺も仕事で、そういう奴に会ったことはあるよ。殺し屋なんていう、ウソみたいな職業をしていた」
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