第1章

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 服を着替えると、蓮は普通の大学生だった。蓮は占い師の他に、祓い師という裏稼業も持っている。 「存在悪。今は、それだけ言っておく。何かの前に逃げる事、いいな」  真里谷の存在を肯定してくれただけでも、心強かった。 第二章 夜から見ている  俺には、守護霊が付いている。亡くなってしまった、直哉の弟、恭輔だ。しかし、出てくる度に、直哉とケンカになる。  御形の家に、真夜中に帰ってくるのは、いつもの事だ。御形の両親も認めて?半ば諦めて見守っていてくれる。  部屋は直哉と同室だが、居間と寝室という二部屋を借りていて、狭いということはない。 「恭輔、真里谷って何だ?」  恭輔は、生きている時は、霊とのハーフだった。 「俺から見れば、人間だな」  霊の見えない、俺と直哉だが、恭輔の声だけは聴くことができた。 「存在悪って何だ?」  今度は、直哉が質問していた。直哉、弟の恭輔をバカにしているが、頼りにもしているらしい。 「…俺も、存在悪だったよ。本人が望む望まないに関わらず、存在自体が悪になってしまうと言うか、死んでよく分かったけど、生きている人間に悪い影響しか与えられない存在かな」  俺は、恭輔は悪だとは一度も思ったことが無かった。反論しようとすると、恭輔の笑い声が聞こえてきた。 「そもそも、天人が近くに居たからこそ、俺は俺で居られた。人で居ることが出来た…」  存在悪であっても、周囲によっては悪にはならないで済むのかもしれない。 「感謝しているよ」  生きている時には、出なかった言葉だった。 「恭輔、それでは真里谷は諦めるとして、人形はどこに在るかな?」  直哉の千里眼でも、人形の在り処が分からない。暗闇しか見えないのだそうだ。 「連携プレーって知っているか。典史の羽の中ならば、直哉が千里眼で見える」  夜、千里眼で見たとしても、日本ならば同じく夜の筈だった。俺達は、朝を待って、直哉の千里眼を使用することにした。 「なあ恭輔、名前を呼び捨てにしてもいいと許可を取ったか?」  直哉が、見えない恭輔とケンカを始める。弟の分際で、呼び捨てにするのは許せない行為らしい。  俺は、このケンカには慣れてきたので、寝室で安眠することにした。  朝、御形の家の庭で、羽を広げてみた。直哉には羽が無いが、俺には背中に羽が生えていた。しかし、見える人は限られているし、普通の人には見えない。
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