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勇者敗北一日目
「魔王様…」
「…側近か」
荒れ果てた魔王の間の王座に座り、魔王は気だるげに側近へ視線を移す。
「傷の具合は、いかがでしょうか?」
「左腕は、もう戻らん、他にも浅くはない傷がいくつかある、…一週間では直りきれんな」
「……」
「余の甘さだ、甘んじて受け入れるさ」
「…」
「なんだ? 何か用があったのではないのか?」
「は、非常に申しあげづらいのですが……大魔王様がお呼びです」
「! 大魔王様が?」
「は、…どうやら魔王様の魔力の衰弱を察したようで…」
「…」
魔王は、失った左腕に視線を落とす。
「…魔王様、いかがなされますか?」
「……他ならぬ大魔王様直々の呼び出しだ、行くしかあるまい…」
魔王はそう言うと立ち上がった。 ふらりと体が一瞬揺れる。 まだ勇者からの傷がうずく。
「しばし留守を任せた。 それと…例の件はどうなっている?」
「そちらの方は…はっきりとしたことは言えませぬが……手ごたえは感じております」
「ほう」
「うまくすれば……次の勇者の死亡に間に合うかと」
「久しぶりに良い知らせだ、そのまま頼む」
「御意!」
魔王が王座の裏に回ると、そこに備え付けられた隠し階段が開いた。
その魔界へと続く道を魔王は歩き、人間界を後にした。
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