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でなければ誰がこんな、人間に手こずるような奴を送り込むものか、そういう事だろう
「だがな、こちらも、大魔力を持った魔族を人間界に送る術は検討することにした、貴様の魔結界の完成を待たずとも済む様にだ、この意味は分かっているな?」
「……は」
危うく勇者に殺されそうになった自分の、その情けない現状が招いた当然の帰結だろう、この屈辱にも耐えるほかあるまい
「情けないことこの上ないわね、こっちは天使と戦いで忙しいというのに…無駄な手間よ」
「……」
「もう良い、下がれ」
「は!」
魔王は、大魔王の間を後にした。
「……」
大魔王城を出た魔王は、カッと目を見開き、空へ向け魔力を解き放った。
放たれた漆黒の光線が、魔界の赤い空を貫き、どこまでも昇ってゆく。
「……クソ。」
魔王は、苦虫を噛み潰したように顔をゆがめ、人間界へと足を向けた。
「魔王様、よくぞご無事で」
「うむ」
魔界から帰還した魔王を、側近が迎える。
「さっそくご報告したいことが」
「ほう」
「奴が、やっとおちました」
「! 今は何日だ? 勇者は?」
魔界で過ごした時間は半日にすぎなかったが、魔界の人間界では時間の流れが違うのだ。
「まだあと一日あります、魔王様がお戻りにならなければ、独断で進めようと思いましたが、間に合って幸いでした」
「うむ」
魔王は、顔に笑みを浮かべ、歩き出した。
(勇者……お前はいったいどんな顔をするんだろうな)
それ考えると、先ほどまでの不愉快な気分が晴れた。
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