第四章

9/14
前へ
/104ページ
次へ
「勇者様……、ささ」  女はスプーンに救った粥を、勇者の猿ぐつわの方へ差し出す。  勇者の口を拘束している猿ぐつわは、中央に貫通した穴があり、そこから食物を通すことができた。  穴を通して流し込まれる粥を、勇者は飲み込む。  毎日一度、勇者と女がいる牢獄には食事が出された。   毎日変わらず、二枚の食器に粥が乗せられている。 味のない粥であり、ただ栄養を取るためだけのものだ。  両手両足を拘束された勇者は、それを女の介護を借りて食べていた。  そんな生活を続けて三日、その日、勇者は気が付いた。 「ささ、勇者様どうぞ」  女の差し出す粥を、勇者は首を振り拒んだ。 「勇者様…まだ半分しか食べておりませんよ」 「……」  違う、勇者は気が付いていた。 二枚の食器に入れられた粥、女はそれを取るとき、隠れるように自分の分を勇者の食器に移していることに。  それでも少なすぎる量だ。  痩せた女を、勇者を目で制した。 「……ありゃ、お気づきになりましたか?」 「…」  勇者はうなずく。 「お優しい……こんな状況でも、勇者様は…やっぱり優しいのですな」 「…」 「勇者様…おらを覚えておいでですか?」  女の問いに、勇者はうなずいた。 「ほんまですか…うれしかぁ」 「……」 「魔物に困ってたおら達を、救ってくださった恩、微々たるもんですが…返させてくだせぇ」 「…」  勇者は首を振る 「……勇者様」 「……」 「…ありがとうございます」  女は、あきらめたように、粥を自分の口へ運んだ。  二ヶ月が、何事もなく過ぎた。  そしてその日は訪れた。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加