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声が、聞こえる、うごめくような、いびきのような声
牢屋に響く声。
その正体を、俺は知っている。たしか最初の拷問の時に……
勇者は、猿ぐつわを食いしばり、苦悶の表情でその声を聴き続けた。
牢が、開く。
「入れ」
少女「……」
ぶるぶると体を震わせながら、まだあどけなさの残る少女が勇者の牢に入った。
「……ッ」
勇者は、目を見開き、魔王を見た。
魔王「貴様が信仰を捨てれば、今すぐにでも解放してやる」
魔王はニタリと笑うと、牢を後にした。
少女「なにこれ、いびき…?」
牢に響く声に、少女は怪訝な顔でそうつぶやいた。
違う
勇者は否定する。
この声の主は、昨日まで自分の世話をしてくれた女だった。
昨日、魔王が牢を訪れ、そして
そして……
魔力で女の体を無理やりゆがませ、球体の肉団子に変えたのだ。
痛覚はそのままに、だ。
一度経験したことのある勇者はわかる。
その苦痛は、想像を絶する。それが継続して続くのだ。
生きている限り、魔王が解こうとしない限り。
この声も、最初は悲鳴のように力強かった。
しかしそれも今、うめくような軋んだ声に変っている。
肉団子になった女は、牢の奥に移動させられた。
ただ声だけが、勇者の耳に入るように。
苦痛の声が。
あの優しい人を……
俺が信仰を捨てるまで。
魔王はこれを繰り返すのだろう。
次はこの少女というわけだ。
この少女にも見覚えがある。
やはり、かつて救った町の子供だ。
少女「……勇者さま…せっかく救っていただいたのに…こんな形で再開してしまい、申し訳ありません」
少女から感じられる優しさに、勇者はただ震えた。
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