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……
声がする
無数の声が
5人の肉団子の合唱
胸が張り裂け、頭がどうにかなりそうだった。
なぜ自分は何もできないのだろう
なぜ……女神様は助けてくれないのだろう
皆優しい人間なのだ、こんな苦痛を受ける咎などない、なぜ……なぜ……なぜ…
うめくような声が響く牢屋、勇者のいる牢が開いた。
勇者はビクりと、魔王を見た。 今回は一人のようだった。
勇者の頬はこけ、髪はストレスから白く染まっていた。
痩せ細った体は常に震えている。 精神状態に異常をきたしているのは明らかだ。
しかし、信仰は捨てない。
「貴様がここにきて、もう半年か?」
魔王は、憎々しげに勇者を睨んだ。
「本来、勇者なら、皆を救うため、自己犠牲をするものではないのか?」
「……」
勇者はただ震え、うつろな瞳を下に向けた。
「……」
そんな勇者の姿に、魔王はため息を吐いた。
「勇者、少し話をしようか」
「!」
「余はな、魔界から来たのだ」
「…」
「魔界には、魔王が余のほかに12名いる」
勇者「……!!」
「恥を覚悟で言おう、余はその魔王たちの中で最も弱い」
「!!??」
「嘘ではない、事実だ、他の魔王にかかれば、余など片腕で瞬殺される」
「……っ」
「まぁ、それだけ弱い余だからこそ、この、人間界に来ることができたのだがな」
魔界と、この、人間界をつなぐゲートを通るには、内包する魔力量に上限があった。伝えられる情報量に限度があったのだ。
「だから余は今、この、人間界に対し干渉し、他の魔王が通れるようゲートの拡張を行っている」
「……」
「わかるか? 勇者、さらに言えば、今余を倒し、ゲートの拡張を防いだとしても、魔界の技術向上によっては、いつ他の魔王たちが人間界に侵攻してもおかしくないのだ」
「余ごときにこの様である貴様に、他の12人の魔王を倒せるのか?」
「……ッ」
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