第五章

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 勇者の話が終わると、場は水を打ったように静まり返った。  皆が口を閉ざし、先ほど進み出た兵士は、あまりのショックからか膝を床につけている。 「……しばらく……休ませてほしい」  話をする中で、皆が現状を認識してゆくにつれ、勇者は幾ばくか冷静さを取り戻していた。 「……」 「…3万人分の働きは必ずする、転移魔法で町を回り、魔物を殲滅する。ただ…魔王の討伐は約束できない…」  勇者のこの言葉に誰も反論を挟まなかった。 「これからの予定や、詳しい作戦は、明日にしてほしい……とにかく今は……眠りたい」 王「…うむ、ご苦労であった、…今は、ゆっくりと休め」 大臣「王…!」  勇者は、よろりと立ち上がると、歩き出した。  その足を、止める。 「……ありがとう…父さん」 「……ッ!」  勇者はそう言うと、また歩き出した。  途中、うなだれた兵士を横目に見、口を開きかけたが、すぐ閉じた。  きっとこの兵士の友も、自分を助けるために犠牲になったのだろう、そう思った。  すまない、弱い勇者で  その言葉を飲み込んだ勇者は、自室に向け歩き出した。 大臣「王、よろしいのですか?」  勇者が出て行ったあと、大臣は、青ざめた顔を王へ向ける。 「……」  王は、何も答えなかった。 勇者「……」  城、勇者の自室。  キングサイズのベットに腰を下ろし、闇の中、壁にでかでかと掲げられた太陽の紋章を、勇者は一人、ぼんやりと見つめていた。  太陽の紋章、女神信仰のシンボルであり、信仰の象徴である。  魔王城から抜け出して、1か月が経とうとしていた。  この一か月の魔王軍との戦闘で、勇者が感じたことは、魔物が強くなっている、ということだった。  正確に言えば、強い魔物が出る範囲が広がった。 と言うべきだろう。  つまりそれは、魔王城を中心に展開されている結界のようなものが、広がっている、ということだ。  だから……それは……あの魔王が、全力で活動できる範囲が広がっているということだ。
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