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この紋章を見せれば、大抵のことは叶った。
紋章を見せれば、王や平民などどんな階級の人物からも情報を得ることができた。
それほどまでに絶大な信頼性を有する紋章である。
「魔王軍は壊滅させた、だから安心して、ここに住むといい」
その一言に、村人たちがひれ伏す。
ありがとう、ありがとうございます
感謝の言葉、しかし勇者はその言葉に、内心顔をしかめる。
勇者は、踵を返すと歩き出す。
「ちょっと、どこへ行くの?」
「用はもう済んだだろ? 俺は帰る」
「そんなつれないこといわないでよう、お礼もまだだし、合わせたい人がいるの」
女戦士はそういうと、勇者の腕にしがみつく。
「……放っといてくれ」
勇者が女戦士へ言葉を放つ。有無を言わせぬ迫力を含んだその声を、女戦士は
「ヤダー、放っときません、とにかく来て! ね? ね?」
さわやかな笑顔と共に吹き飛ばした。
「??」
勇者は面食らった顔になる、このやり取りに、とんでもない違和感を感じたからだ。
違和感…一体なにが?
勇「うわっ おい!」
ぐんと引っ張られ、勇者の思考が途切れた。
勇者の腕を抱いたまま、女戦士は勇者を無理やり引きずってゆく。
村人達も茫然とその姿を見送っていた。
「相変わらずだな……あいつは」
村人(男)は苦笑する。
あいつの前では、勇者だろうが、なんだろうが、関係ないのか
「ただいまー」
勇者の腕を片腕に抱いたまま、女戦士が自宅の扉を開いた。
男の子「お帰り…おねーちゃん」
ベットで横たわる小さな男子が、弱弱しい笑顔で出迎えた。
「……」
女戦士「もう聞いて、おねーちゃんすごい人と知り合いになったの! 誰だと思う?」
男の子「えー誰かなぁ、コホ、コホ」
男の子は小さく咳こむ。
「……特有の疫病かなにかか?」
毒や、病気、感染症なら村の神父が直すことができる。 この世界で病弱で床に伏せている人間など、勇者は今まで見たことがなかった。
女戦士「ううん、もともと、体が弱いの」
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