第五章

15/18
前へ
/104ページ
次へ
 僧侶をこっそり司祭の家に帰した勇者は、行動を起こした。  勇者の号令の突然の招集にもかかわらずその席には国王をはじめ、国の中枢を担う人物たちが集まっていた。  皆が会議室の下座に立つ勇者に視線を向ける。  何せ勇者は皆を集める理由として言ったのである。  魔王達を倒す策を思いついた。 と。 参謀「皆もそろった、勇者よ、さっそくその策とやらを教えてくれ」 勇者「はい、それでは説明します」  勇者はそういうと、心の中で、構えた。  イメージは、仲間と一緒に戦闘している時だ、その時の心構えでもって、勇者は口を開く。 「全員、起立してください」  勇者の言葉に応え、皆が一様に起立をした。 「……」 「…勇者よ、これは一体なんの真似だ?」  王は起立したまま、怪訝な顔を勇者へ向ける。 「まずは、実際に体験してもらったほうが、説得力があると思いまして」 参謀「体験?」 「勇者の能力の一つ、命令です」 参謀「?」 「私から発せられた命令は、女神様の信徒ならば誰ひとり拒絶することなく、違和感を持つことなく、従わせることができる」 参謀「勇者、あなたは一体何を言っているんだ?」 「……突然の起立の号令に対して、あなた方は何も違和感を感じませんか?」 参謀「違和感といわれても」  参謀は府に落ちない様子だった。 勇者の命令に従うことが正しいとまるで疑っていないように。 「冷静に考えてみてください、突然起立と言われて立つ人間がいますか? それも全員、こんなこと普通ありえない、 違いますか?」 「……言われてみれば」  参謀はここでやっと半分納得したようだった。 「もちろんこの命令は、どんなことでもできるわけではありません。 たとえば信仰を捨てろなどの命令は、矛盾が生じるために拒否されます。 加えて、命令の内容が、された側の能力を超えている場合も同様です」  加えてこの能力は勇者が心の底から願った場合のみ、発動される。  それ故に、勇者は気が付けなかったのだ。  戦士、魔法使い、僧侶……仲間や、王が自分の思い道理に動いたことや、冒険の最中他国の住人や、重要人物から都合よく話を聞けたのも、思い返せばこの能力のおかげだったのだろう。
/104ページ

最初のコメントを投稿しよう!

30人が本棚に入れています
本棚に追加