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違う……これは小池先生の手じゃない。
いつもなら大きな手で、力強く叩くはずなのに。
「仕方ないな、校門まで一緒に行って話を聞こうじゃないか」
「え、あ、あの……やっぱり良いです!」
ゾワッと全身を撫でる悪寒を振り払うように、私は階段を駆け下りた。
今のは何!?何なの!小池先生と全く同じ声で私を騙そうとした!?
「赤い人」がこんな事をしてまで振り返らせようとしてくるなんて……。
階段を下りた私は、不安と共に辺りを見回した。
ここは……一階、生徒玄関がすぐそこにある。
気が狂ってしまいそうな恐怖の中、それだけが救いであるかのような安心感。
「優香が一緒に来てくれたら、こんな事にはならなかったんじゃない!」
私がスマホを音楽室に忘れたのが悪いんだけど、そんな事を棚に上げて、一緒に来てくれなかった優香を恨めしく思う。
だけど、校門から出たら安心して優香に泣きつくんだろうな。
生徒玄関に辿り着き、いつもの癖で靴を履き替える。
こんな時くらいそのまま飛び出しても良いのに。
でもこれで、靴を履き替える為に戻って来なくて済んだ。
後は開いているドアから出て、校門までの直線を走るだけだ。
そう思ってドアに向かおうとした時……私の目の前で、ドアが突然閉まったのだ。
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