赤い人

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小さな白い手。 私が逃げるのを邪魔するかのように伸びたそれが足首を掴み、私は派手に廊下に倒れた。 「あぐっ!」 身体を強く廊下に打ち付けて、一瞬息が止まる。 一体何が……と、足首を掴む何かを見ようとしたけど、振り返った事になってしまうかもしれないと、見たい気持ちをグッと堪えて顔を上げた。 「放して……何なのよこれ!」 恐怖で塗り潰されそうになる心を、叫ぶ事で防ごうと声を上げる。 冷たく、凍り付いてしまいそうな足をバタつかせて、必死に振りほどこうと。 私を掴んでいるのは「赤い人」かもしれない。 こうやって、私を何とか振り返らせようとしているんだ。 あの怪談がどこまで本当なのかは分からない。 振り返ってしまえば、八つ裂きにされるというのも本当なのかな? ……そんなはずない。 今まで、そんな事が起こったなんて聞いた事がない。 殺人事件が起これば、絶対に話は私の耳にも入るはずだから。 だからと言って、振り返る勇気はない。 「いい加減に……放してよ!」 そう叫び、強く床に打ち付けるように足を振り下ろすと……その衝撃のおかげか足首を掴む手が緩んだのだ。 すかさず起き上がり、走り出した私の目の前には……「赤い人」の姿があった。
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