25 抱擁-2

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シンと、静まり返った深夜の病室に、穏やかな声が、優しく響く。 「ありがとう」 「……え?」 ――お礼を、言われてしまった。 なんに対する礼の言葉なのか、把握できない私は、疑問の眼で課長を見つめ返す。 「また、名前を呼んでもらえるなんて、思ってもいなかった」 伸びてきた大きな手のひらが、私の頬を優しくなぞる。 ――温かい。 親指の腹で、涙の後をそっと拭うと、手のひらは、静かに離れていく。 その温もりが、名残り惜しくて、 私は思わず、身を乗り出し、両手で課長の手のひらを、はっしと掴んでしまった。 引っ込めようとした手を、鷲掴みされた課長は、驚いたように、目を丸めている。 そりゃそうだ。 いきなり泣き出したと思ったら、次はコレだ。 課長の驚きは、もっともだ。 一番、私自身が驚いている。
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