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「俺は、あの時、何の力も持たない、ただの青二才だった……」
穏やかすぎるほどの静かな声音に、当時の東悟の心中を垣間見せるものは、まったく感じられない。
でも、だからこそ、その痛みを身の内に秘め続けている気がして、胸の奥が軋むように痛んだ。
あの時、打ち明けてくれたら、よかったのに。
そう思う気持ちと、
あの時、打ち明けられていたら、
私に、何ができたのだろう?
そんな、相反する気持ちが、私の中でモヤモヤと渦を巻く。
冷静に考えるなら、たぶん、何もできなかった。
東悟が、一介の大学生に過ぎなかったように、私も、東悟に恋をする、ただの十八歳の女の子に過ぎなかったのだから。
それを痛感していたから、東悟は、私に真実を告げずに姿を消したのだろう。
――でも、それでも。
私は、打ち明けてほしかった。
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