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「お疲れ様でした」
深々と頭を下げて、店を後にする。
右足を蹴り、エンジンをかけてヘルメットをかぶる。
ハンドルを回すと、景色が一気に流れた。
真っ赤な車体のゼファーと一体になり、道路を疾走する。
フルフェイスのヘルメットは、すべての音を遮断する。
狭められた視界。
見上げなければ、空は見えない。
雨を待たなければ。
ただ、それだけ。
◇
今日も、嫌な客が多かった。
「ただいま満席となっております。待ち時間は1時間ほどになります」
「えー、そんなに待てないよぅ」
甘えた声で、連れの男にしなだれかかる。
「彼女がこういっているんだ、なんとか席を作ってもらえないだろうか? ほら、あの席空いているだろう?」
指差した先にある二つの空席は、予約客のもの。
あと、30分ほどで来店予定だったはず。
ちらりと時計を確認してから、改めてそのように伝える。
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