世界一の冒険譚

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 剣と魔法の文化が広く深く浸透した、とある世界。  長く平和な時代が続いていたこの世界にもついに、強大な力をもつ『魔王』なるものがあらわれ、その悪逆非道な行いに人々は苦しめられ、しいたげられることとなった。  空からあまねく降り注いでいた日の光は黒い雲によって遮られることとなり、野には魔物があふれ、恐怖と悲しみによって多くのものの安寧が奪われた。  事態を重くみた時の王は、国の枠を超えて広範にわたるお触れを出し、世界中から腕に覚えのあるもの、魔王を討伐せしめる勇者を募集した。充分な褒美を用意した甲斐あって屈強な猛者が集まり、その中でさらに競い合わせた結果、とくに抜きんでた実力を持つひとりの若者が、選び出された。 「では、そなたに勇者の称号を与え、魔王討伐の任を命ずる」  王様が玉座の前に若者を呼び寄せると、若者はうやうやしくかしずいた。しっかりした体つきの、精悍な若者だった。 「はい。必ずや魔王を倒し、世界に平和をとり戻してご覧にいれます」 「うむ。そなたが無事に役目を果たして凱旋したあかつきには、そなたの功績を後世にまで伝えるために、勇者の足跡を書物にまとめることとしよう」 「ありがたきしあわせにございます。では王様、さっそく行ってまいります」  若者には旅の供にと、城でも随一の魔法の使い手、優秀な騎士、動向を細かく書き留めておくための詩人が紹介された。王城の鼓笛隊が勇壮なファンファーレをかなで、城下町の民衆がこぞって見送りにかけつける中、若者は仲間とともに勇者一行として長い旅に出たのである。  勇気ある若者の旅立ちから、一年ほどが過ぎたある日のこと。  それまで天を覆い尽くして晴れる様子のなかった暗雲が突如として消え去り、世界にふたたびあたたかな光がもたらされた。同時に、魔物もぱたりといなくなった。誰の目から見ても、勇者によって魔王が倒されたことは明らかなのだった。  王様は念願かなって喜び、勇者の帰りを首を長くして待っていたのであるが……。 「王様、大変でございます!」  数日後、大臣がただならぬ顔つきで王のもとに駆け寄ってきた。
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