第1章

22/56
前へ
/56ページ
次へ
 その夜、源之助は独断であの病院の内部に忍び込んだ。近くの街路樹にするすると登り、ロープを屋上の金網に引っかけて飛び移り、近くの窓から侵入した。  患者が収容されているとおぼしきフロアに階段を降りてたどり着き、赤外線ビデオカメラを構えて奥に進む。源之助は既に強烈な違和感を覚えていた。  病院にあるはずの、音がなかった。かすかにモーターが回転する機械音、ゴポゴポという液体が泡立つ音。それだけが聞こえてきた。だが、寝息、うめき声といった、人間の発する音がまるで聞こえない。  人がいないのを念入りに確認して、懐中電灯を灯す。そこには、透明な分厚いアクリルの水槽があった。水族館の水槽に使われているような大きな容器。  内部は薄い、ピンク色の液体で満たされていた。液体が泡立つ音は、それから発されているようだった。そしてその大きな水槽のような容器の中に、人間の体が浮いていた。
/56ページ

最初のコメントを投稿しよう!

11人が本棚に入れています
本棚に追加