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「あっははははは」
「止めろよ、大牙! 人の日記を勝手に見るな!」
狭い部屋に乾いた笑いが響く。和斗は顔を朱に染め、その笑いをさえぎるように大声を出した。
うなりのようなPCの稼動音は巨大な生き物の存在を思わせるが、書物やディスクやメモリや、部屋の中に散乱する大量の情報の中で生きているのは、和斗ともう一人の少年だけだ。
PCの前でマウスを動かし、大牙はケラケラと身体で笑い、こらえようとする気配はつゆほどもない。心底おもしろがっている顔だが、その口調は棒読みしているように無機質だ。
「つーか、お前本当に思ってたの? なぁ、俺がいなくてさびしくて泣いたの? あっはは、笑える」
大牙を失うことが怖くて泣いてしまった。その事実に和斗はますます顔を赤くするが、否定はしない。
「しかたないだろ! 大牙とリンクしなきゃ、僕は生きていけないし……」
言外に発せられる和斗の照れを、大牙は呼吸と同じくらい簡単に察知する。同時に、想像しただけで沸き起こる、身を切られるような痛みと現実的な死への恐怖。
和斗と大牙は『灯体(ヒタイ)』と呼ばれる生命体だ。限りなく人間に近いが、他者との『繋がり(リンク)』が無ければ生きていけない存在。『繋がり(リンク)』とはすなわち、魂レベルでの強い結び付きのこと。
二人は『繋がっ』ていた。
カタカタと身を震わせ、書類だらけの床に和斗はへたり込む。大牙が回転椅子から立ち上がり、おもむろに和斗の隣に座った。右肩を和斗の左肩にくっつけて、右手を和斗の左手に重ねる。大牙から伝わる温もりと鼓動が、和斗の震えを止めた。
「恐れんなよ、和斗。俺はもう、二度といなくならない。ずっとお前を守るから。だって俺たちは――」
――繋がっているんだから。
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