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「言ってごらん」
「実はですね……昨日、会議が終わって帰るとき、靴を履こうとしたらよろけちゃって、咄嗟に部長が受け止めてくれたんですけど、勢いで廊下に倒れちゃったんです」
興味津々って感じじゃなくて、真剣に口を挟むことなく頷きながら聞いてくれる武田さんに安心感を覚える。
「その時、部長が床で肩を打ってしまったみたいで、片付けを手伝うことになって残ったんですけど」
結果的に本当はそんなに痛めてなくて、部長の嘘だったんだけど。
武田さんがアイスティーを口に含んでから首を傾げて、続きを話すように促してくる。
「それで、洗い物するのに邪魔だったから、着けていた指輪をポケットにしまったんです。だけど、今朝になって給湯室で部長から返されたんです」
本当はもっともっと色々あったけど、さすがにそこは……言えない。
「つまり、指輪を落として帰った高梨ちゃんに、部長が給湯室で渡していたところへ、タイミング悪く田村さんが通りかかったってことか」
小さく何度も頷きながら腕を組んで目を瞑る武田さんが、片眉を微妙に上げて目を開いた。
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