第二章

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 義光は甲冑姿も勇ましく、上座にどかりと座り。下座には、金子元宅らが頭を下げて居並ぶ。 (この者どもは己の無力さゆえに、我ら土佐人にすがっているのだ)  すがられる土佐人として、義光は得意になり、気が大きくなる。 「で、小早川の動きはどうか」 「は、戦の支度整い、村上水軍の輸送にて来島海峡を渡り今治に上陸ようでございます」  答えたのは元宅のとなりにいる弟の元春である。穏やかそうな兄とは違い、目つきするどく無骨な印象の人物であった。  今治は金子城のある新居郡より西になり。今治周辺の伊予中部は瀬戸内海へと突き出すような地形で中国地方との間に島も多いため、古来より交通の要所であった。となれば、当然その来島海峡を渡るのは理にかなっている。  が、小早川の軍勢の渡海の手引きをするのは、伊予の来島海峡を拠点とする村上水軍であった。  瀬戸内海の海賊として鳴らした彼らは独立心が強く、長宗我部の軍門に下るのをよしとせず、徹底抗戦を貫いていた。この村上水軍のために、長宗我部は伊予を完全に掌握しきれずにいたのだった。  その村上水軍が毛利側についたのは、独立を認めるなど有利な条件を提案されたからであろう。  そのことは義光も聞いていて、小早川とともに村上水軍も倒してやろうと闘志を燃やしていたものだった。 「数は」 「およそ、一万五千」 「なに……」  一瞬、義光は黙った。本土、中国地方から大軍が来るであろうことは予想していたが、十万とは違い一万五千ともなれば実感が湧いた。 「申し上げます!」  突然の声。新たな動きがあったか。 「なんじゃ」  城主のような振る舞いで突然駆けつけた武士に言をうながせば、その者息も切れ切れに、 「小早川隆景とは別に、吉川元長率いる一万五千の軍勢が直接この新居郡に向かい渡海しているそうでございます!」  大広間は騒然となった。  合わせて三万である。 「いまいちど問うが、おぬしのそろえた兵は」 「はい。二千にございます。この金子城に一千、支城の高尾城にもう一千」 「ふむ……」  義光率いる土佐の手勢と合わせて二千二百。その差は十倍以上。だが義光は恐れなかった。 「おもしろや!」  膝を打ち、がはは、と豪快に笑う。 「おぬしらに土佐人が百人力なることをとくと見せてやろう」
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