第三章

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 義光らは金子城へと引き返し、城内へと駆けこんだ。そこへ、どさくさにまぎれて領民らが数名一緒になって駆けこんだ。  義光らは元宅など知らぬ顔で、大仰な動作で兜を脱いで地に叩きつけ。それを和田の郎党が慌てて拾い上げた。その顔は主同様に伊予者に対して冷たいまなざしであった。 「おぬしら……」  元宅はひれ伏す領民を静かに見つめた。このことは領主である彼自身も予想もしなかったことであった。  領民は叫んだ。 「と、殿様、わしらも一緒に戦わせてくだせえ!」 「なぜ、そのような危険をおかす?」 「なぜって、わしらは『いちえんちくしょう』じゃ」 「ばか、それを言うなら一蓮托生じゃ」 「そうじゃ、い、一蓮托生じゃ」  領民らは口々に一蓮托生を繰り返し。元宅は静かに聞き入った。 「土佐者は嫌いじゃが、金子の殿様は大好きじゃ!」 「うぬらあ!」  領民のひとりがはずみで叫んで、城内にどかどかと入ってゆこうとした義光はそれを耳にして大股で戻ってきて太刀を振りかざした。 「おやめくだされ」  さすがに元宅は慌てて義光を制止し、弟の元春も一緒になって止める。 「おのれ伊予の土民ども、まだ土佐者の強さを知らぬか!」 「へん、あかんべえじゃ!」  元宅と元春に抑えられながらも太刀を握りしめる義光を目にしても、領民たちはひるまずにあからさまな態度で舌を出し。  義光はますます怒り狂った。  四国各地において百戦百勝し、阿波・讃岐・伊予の者たちはことごとく土佐にひれ伏したはずなのに。まだこのような反抗的な者がいるのかと思うと、義光は土佐人としての誇りを大きく傷つけられた思いに駆られるのであった。 「おやめください、どうかお心をおしずめくだされ」  元宅と元春は必死になって義光をおさえて、金子の郎党らもこれはいかんと集まってきて。さすがに和田の郎党もこれはまずいと、皆で一緒に義光を抑えて、それでようやく太刀を下げて鞘におさめた。  が、顔は真っ赤なままである。 「このこと、元親公にとくと伝えておくぞ!」  領民らをあからさまに蔑視して、「酒じゃ酒じゃ!」と大声でわめきながらどかどかと足音を響かせて城内にかまえられた一室へともどってゆき。  あとには重い沈黙がたれこめた。
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