第三章

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 と叫ぶ伊予の豪族や武士の声など、領民の耳には届いても、心にまでは届かなかった。 「ええい、退け!」  隆景は苦虫をかみつぶしたような顔をし撤退の号令を下した。このまま踏ん張ったところで損害がひどくなるばかりだ。  毛利軍は百戦錬磨のつわものぞろいであるが、民百姓を討つのをためらっているうちに自分が討たれてしまうということも散見された。  玄人の戦人(いくさびと)であるがゆえに、素人の領民を討つのは武士としての自覚が許さなかった。そのために、損害は大きくなる一方であった。 「なんということだ」  退きながら隆景はうならざるをえなかった。
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