第三章

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 隆景の軍勢はどうにか退き。領民らは深追いせずに、やーいやーいと叫びながらその背中を見送った。  それから態勢を立て直し。そこで軍議がひらかれた。 「伊予人は皆土佐を憎んでいるのではなかったか」  その隆景の言葉に、伊予の豪族は言葉もなかった。  隆景もその言葉を信じて伊予に上陸したのだが。まさか一揆でもあるまいに、領民に襲われるなど夢にも思わなかったことである。 「金子元宅。善政を布き民に慕われていると聞きましたが、まさかあそこまでとは……」  ひとりの伊予の豪族が面目なさそうに言い。隆景はため息をつきながらうなずくしかなかった。 (これは、という人が強敵(ごうてき)となる。戦国の世というものは……)  名将と畏敬される隆景であったが。畏敬される人であるがゆえに、いまの戦国の世にやり切れぬものも感じてやまなかった。 
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