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金子郎党らの姿を見て、義光や和田の郎党は身が震えた。
伊予人の意地に、はじめ怖じて、次に心に杭を打たれて、あるいは突き動かされて、
「うぬらだけ死なせはせぬぞ」
などと、思わず口走ってしまった。
「伊予人の死を座して傍観する土佐人と思うな」
「それは困る」
義光の言葉に、意外にも元宅の言葉は冷たかった。
「なぜだ。そうか、今までのことか。それなら謝る」
膝を折り手を突こうとした義光の脇を元宅はおさえて無理にでも立たせる。そのそばで、元春ら金子郎党らは義光の変わりようを意外そうに見ていた。
武士たる者が謝ると頭を下げるのはよほどのことである。そこまでに自分たちは奮い立っていたことを義光の姿で改めて知るのであった。
「なぜだ、元宅殿」
「そうですな。義光殿には、我が死を見届けていただき、元親公にしかと伝えてほしいのでござるよ」
「なんだと」
「もはや元親公の四国支配は風前の灯火。手を切ろうとすればできるが、そのような不義理ができぬ馬鹿正直者が伊予にもおったと」
「しかし元親公も死を覚悟なされているぞ」
「なにも元親公に限らずとも、土佐、いや四国中にこのことを流布してほしい。それを、義光殿、あなたにお頼みしたい」
「……」
言葉が浮かばぬ義光と和田の郎党を元宅は見据えて、ふう、とため息をつく。
「できぬとあらば、ここであなたがたを斬る」
その言葉が終わるか終らぬかの瞬間に元宅らの目が光った。
本気だ。
彼らは本気なのだ。
そこまで本気であるのなら……。と、義光は「わかった」と首を縦に振らざるをえなかった。
「かたじけない。これで心置きなく死ねるというもの」
学者然とした落ち着いた元宅がこのときはじめて「わっはっは」と破顔一笑し。金子郎党らも笑い。義光と和田の郎党らはその笑いに包まれた。
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