第一章

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 義光ら二百の軍勢は山を北にのぼってゆく。  四国は山深い。道といっても獣道同然で、生い茂った草木を鉈(なた)で薙ぎ払いながらの進軍であった。  が、皆慣れたもので、険しい山道を悠々とのぼってゆき。伊予と土佐との国境の峠、大田尾越(おおたおごえ)にさしかかろうとする、というとき。  一同に緊張が走り、義光の目が光る。  大田尾越に人影がある。騎乗にて、ひとりではなく、十名ほど。  上方の軍勢がもう伊予を攻め落とし土佐に迫ってきているのか、と。が、しばらくして、義光は頬を緩ませ軽く笑った。 「いやあ、出迎えご苦労でござる」  と、単騎駒を進めれば、大田尾越にある者たちも微笑んで下馬し会釈する。  甲冑は身にまとってはいるが腰は低くうやうやしい。中のひとりの初老の男が馬を従者に預け前に進み出て、跪く。  柔らかな物腰から、甲冑でなく平服であれば学者と思わせる振る舞いであった。 「金子元宅(かねこもといえ)でござる」 「やあ、あんたが金子元宅殿か。出迎えご苦労。和田義光である。おれたちが来たからには、上方なぞひとひねりだぞ」  初老の男性、元宅が跪きうやうやしいのを、義光は馬上から見下ろし得意になる。  この金子元宅こそ、羽柴秀吉の四国攻めに際して援軍を元親に要請した伊予の豪族であった。  四国のほとんどは土佐の長宗我部元親が切り従えている。それにともない、四国の中では土佐が一番偉い、ということになり。阿波、讃岐、伊予の三ヶ国は土佐に頭を下げるものだと、義光ならずほとんどの土佐人が抱いていた思惑であった。  元宅は若い義光に馬上から見下ろされても微動だにせず、 「たよりにしておりもうす」  と丁寧に言い。義光は満足そうにうなずいた。
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