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大田尾越からは元宅の案内で山を下りてゆく。
下りてゆくに従い夏の暑さが一段と強くなってゆき、それとともに、瀬戸内海をのぞむようになってくる。
山育ちの義光は海は瀬戸内海しか見たことがない。父の義清は元親公に従い土佐を転戦し太平洋を見たという。太平洋は波が荒くひたすら広いそうだ。
それに対して義光は北方方面への出征ばかりで、瀬戸内海しか見る機会がなかった。だから、義光にとって海と言えば瀬戸内海であった。
瀬戸内海は遠く対岸をのぞみ、島もあり、波も穏やかで静かなものであった。聞けば流れは早く船をこぐのに苦労するそうだが、陸から見る限りでは想像がつかぬほどに、瀬戸内海は穏やかであった。
遠くに見える対岸から上方の軍勢が瀬戸内海を越えて四国に来る。伊予に来るとなれば、中国の毛利の軍勢である。
「人をやって調べましたるところ、伊予には小早川隆景が来るそうでございます」
「おお、小早川隆景!」
その名を聞いて義光の心は躍った。強大な勢力を誇る毛利家に、毛利の両川(りょうせん)ありという。ひとりは吉川元春、もうひとりが小早川隆景である。
その名は全国に知れ渡り、誰だっただろうかと深く思い出すまでもなかった。その両川のひとり小早川隆景とは、願ってもない強敵である。
「小早川隆景なにするものぞ! 哀れなことに奴は我が手柄になるためにおめおめと四国に来るのだ」
「さようにございますな」
やる気満々で鼻息の荒くなった義光に、元宅はほほえんで応えた。
「さて、そろそろ金子城につきまする。歓迎の宴のご用意もしてあります……」
「よし、よし」
義光は天を仰いで、がはは、と高笑いした。
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