第1章

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<三日目:2014年10月8日(水)> 「皆さん、こんにちは!家庭科の教育実習で来させてもらっている山口です!大学でラグビーやっててこんな体型ですが、家庭科でお世話になります!」 狐塚がやってきて三日目となる、その日の六限は家庭科の調理実習だった。 家庭科室の教壇に立つ、身長が190センチぐらいあって凄く体格のいい彼がそう言うと、クラスの皆は親しみのある笑い声を上げた。 「先生、家庭科って感じしなさすぎー」と男子生徒が声を響かせる。 「いや、ホントそれ、死ぬほど言われるから!ごめんね、家庭科の実習生にこんなんが来て!」 と、実習生は壇上から返し、また部屋全体に笑い声が広がった。 いかにもラクビーマンって感じだけど、むさ苦しくなくて親しみやすくて人気者って感じ。 この人、教育実習めちゃくちゃやりやすいだろうな。 そんなことを考えながらも、私も笑う。 でも、この笑いはすごく空虚だ。 笑っているのは私の心じゃなくて顔だけ、皆との整合性が表情筋をクッと持ち上げているだけ。 自分が特別だって思うんじゃない、周りの皆は、笑っている時、本当に笑っているの?って思うだけ。 でも、こんな風に考えてしまう私は、却って子どもじみてるのかもしれない。
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