第1章

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家庭科室から教室までの帰り道、私と真理亜はエプロンと三角巾が入った、ペラペラした布製のトートバックを肩に掛け、教室へと歩いていく。 「山口先生面白かったね。フツウにカッコいいし、楽しかったー」 「人気者だったね。男の家庭科の先生なんて初めてだったけど、家庭科の先生ってなめられがちだから、意外とああいう人の方がいいのかもって思った」 「あー、確かにぃ。今のおばちゃん先生より断然良くない?あの人がそのまま家庭科の先生になって欲しー」 真理亜は私の手の先をチラリと見て、少し不思議そうな顔をした。 銀色のアルミホイルで包んだ調理実習の余りのバナナマフィンだ。 「それ、利香、食べきれなかったの?」 「そう。六限だと、お昼にお弁当食べたばっかりだからお腹空いてなくて。そんな短時間で消化しきれないよ」 「分かるー。調理実習、四限にして欲しいよね。だったらお昼ご飯にできるのに。とか言って、あたし全部食べたけど」 きゃはは、と真理亜が笑い声を上げた時、その横を見知った顔が通り過ぎた。 「あ」と、その口から洩れる。 「利香じゃん」 その口が続けて私の名前を呼ぶ。 ざわざわ、というか、少しの不快さがぽうっと上がってきて、そわそわ、した。 真理亜が意味ありげな表情で私とソイツを眺めるのが、目の端に映った。 久し振りだね、とはなんとなく言いたくなくて、「あ、今、調理実習の帰りなんだ」と軽く笑顔を作る。 「そっか、三年になったら調理実習ないから羨ましいわ。何作ったの?」 「グラタンとポテトサラダとか、色々だよ」 「へえ。どうだった、美味しかった?」 「うん。じゃあ、またね」 「あ、おう。また」 彼に曖昧な笑顔を返して、スカートを翻す。 バイバイした後の左頬に視線が浴びせられているのを感じた。 彼と、それから真理亜の。 真理亜の言いたげな雰囲気に気付かない振りをして、何かを思考しているようにぼんやりと前を見ながら、歩き出す。 母親に恋愛話に触れられたくない娘の気持ちのようなものが立ち込めてきて、私はその数秒のやり過ごしの間に慌ててそれを隠す。 「久し振りに見たけど、やっぱり三宅先輩カッコ良かった。なんで別れちゃったの」 と、後ろを振り返りながら真理亜がぼやいた。 「違うよ、私が振られちゃったんだって」 「でも勿体ないよ。あたしは今彼が一番だけど、三宅先輩ならちょっと考えちゃう」
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