第1章

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三宅先輩、というさっきの彼は、私が今年の春に二ヶ月だけ付き合っていた、三年生のバスケ部のエースだった。 交際を始めた理由は、電車の方面が一緒でずっと気になってた、と告白されたから。 別に、好きじゃなかった。 ただ、彼は学校で有名で人気者だったから、どんなものかなぁって思った。 私が初めてセックスした相手は、彼。 でも、それも三回だけ。 一回目はもちろん激痛で、二回目と三回目もイイとか全然そんなのじゃなくて、ヒリヒリする無感動な作業みたいな、そんな感じで、セックスも人気の先輩自体もこんなもんなのかって感想だった。 そして、そんな私の微妙な空気を察した彼に、「受験で忙しくなるから。俺から言っておいてごめんね」と言われて、終わり。 「でも先輩もさー、受験だから無理ってそれちょっと酷いよねぇ」 「うーん、それまで話したことなかったし、私のこと元々そんなに好きじゃなかったんだと思う。私だって興味で付き合った部分が大きかったから、何とも言えないんだけど」 「ふうむ」と真理亜は息を吐き出し、 「利香は落ち着いてるっていうか、時々すっごい冷めたこと言うよねぇ」 と微かな笑いを伴って、続ける。 「老成してる?」 「老成してる。めっちゃ老成してる」 「いや、でもこれ、悪い老成だよね」 笑いながらも、ここにいない誰かと話をしたい、と思った。 教室に囚われた私達と違う、ここじゃない場所で生きる、誰か。 ああ、そうだ、今日の放課後は狐塚に会いに行こう、と思い付く。 右手に持った、調理実習の残りのマフィンをお土産にして。
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