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<一日目:2014年10月6日(月)>
私はクラスで一番綺麗と言われる女の子で、ここは高校二年の教室だった。
「ねえ、利香、ちょっと聞いてくれる?」
そう言って、バービー人形のように作り上げられた顔を歪めているのは、一年生からの友達である真理亜。
「うちの彼氏、相変わらず超嫉妬深くってさぁ。男の子のLineとTwitter全部消してって言うんだよぉ」
私の席の横でしゃがみこんでいる真理亜は、短いスカートが上がって、肌色の太股が露出している。
「へえ。他の男の子とできるだけ話さないようにして、の次はそれなんだ。Twitterのフォロワー数って相当数あるんじゃない?」
答えながら、スクールバッグの中の読み掛けの本のことをチラリと考える。
石田衣良の『美丘』。
続きが読みたかったのに、この分では休み時間じゅう愚痴を聞くことになりそうだ、と少し残念に思う。
「ほんと面倒。そこまでしなくても、あたし浮気とかしないのに、って感じ」
「そうだね、そこまでしなくてもいいのにって感じだよね。私なら別れたくなっちゃう」
「うーん、でもぉ」
真理亜は下を向き、スカートからはみ出た膝小僧をクルクルと撫でた。
座っている私のせいで教室の蛍光灯の明かりが遮られ、真理亜の付け睫毛が鈍い光沢を放って見えた。
「あたしのこと、こんなに受け止めてくれたのも今の彼氏が初めてっていうか」
そう言って、真理亜はクルリと上がった睫毛を私に向けた。
その顔いっぱいに広がる含蓄を私はそっと拾い上げ、なるほど、愚痴に見せかけたノロケだったのね、と理解する。
「そっか、そういうの羨ましいなぁ。確かに愛されてる証拠だもんね」
「まぁ、愛されてるってのはめっちゃ感じるかなぁ。Twitterとか消すの面倒くさすぎるから、もう彼氏が自分で消してよって感じなんだけどね」
と、真理亜は満更でもなさそうに顔をしかめる。
女の子は皆、言う。
ワタシのこと分かって、分かってよ、と。
それを口にはしなくたって、表情や言葉、彼女たちの存在そのものがその要求を醸し出している。
ワタシのこと分かって、ワタシに価値を与えて、ワタシを愛して、と。
そんなことを考えながら、「それは本当言えてる。心配なら自分で消してって言ってみちゃえば」と笑う。
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