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「朝礼で初めて見た時からなんとなく思ってたんですけど」
狐塚がきょろりとした眼を向けた。
眼鏡の奥のまぶたは二重の幅が薄くて、上目遣いになった時や驚いた時だけクッキリした二重を形作るらしい。
「狐塚先生はあれですよね。高校生とか嫌いなのに、高校に教育実習に来てしまった人」
狐塚はくっくっ、と笑った。
「そんなことを感じたとしても君は実際に言ってくるんだ。面白いね。ごめんね、そう思った?」
「興味もやる気も、それらしく見せかける気さえないように見えたので」
「全く反論出来ないな。担当の授業ぐらいはキチンとやるつもりだけど、確かにやる気は取り立ててないんだ」
「ですよね、酷い実習生ですね」と私は軽く笑い、「先生にはならないんですか?」と続けて尋ねた。
「美大生なんか出ても就職どうするんだって話だからさ、なんなら美術の先生でもなるかと思って教職取ってたんだけどね。結局、一般企業のデザイン職で就職が決まったから」
「その方がいいですよ。高校の教師なんて、多分、狐塚先生には向いてないように思えるから」
この人はなんとなく、生意気を言うことを許してくれる気がして、私はつらつらと本音を述べた。
でも、こういう言い方は小賢しい高校生みたいであんまり可愛くないだろうな、と思いながら。
「そうだね。高校生なんてどう扱っていいものかよく分からないしね。皆、青春って感じで若くて、ちょっと困ったよ」
だけど、狐塚の反応は予想外に共感的なものだった。
皆、青春って感じで若くて、ちょっと困る。
それ、ちょっと分かる、と思った。
けれど、それを分かると言ってしまえる程、狐塚との距離は近くないし、お前も高校生の癖にと思われたくなかった。
でも、ちょっと、分かってしまう。
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