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窓の外を眺めると、赤く色づき始めた木の葉が風に揺らされているのが見えた。
さっき授業が終わったばかりの秋の空はまだ明るい。
狐塚に向き直り、「そんなこと、私に言ってしまっていいんですか?私もあなたのクラスの生徒なのに」と、少しだけ挑発的に笑ってみせた。
コドモとオンナの狭間みたいな表情をして。
狐塚は、余裕を持ってそれを楽しんでいるみたいな困り顔を作って、
「確かに結構な失言だったね。なんとなく、君はそういうのどうでも良いんじゃないかと思って、口を滑らせてしまった。担当の先生とかお友達にはチクらないでね」と言った。
じいっと眺めると、狐塚の瞳の中がうらうらと笑っている。
この人は私よりウワテだ。
私はなんだか可笑しくなって、くくくっと空気を揺らして笑った。
それから、「ねえ、狐塚先生って美大生だから絵上手いんでしょう?
皆に言わない代わりに、私の似顔絵でも書いてくださいよ」と、笑い声を揺らしながら冗談を言った。
「ああ」と狐塚は呟いて、まじまじと射貫くような眼で私を見つめた。
え、と思う。
それはきっと、ほんの短い間だったのだけど、私は冗談ですよと言えぬまま、目を反らせもしないまま、一身に狐塚の眼を受けた。
温かさや親密というより、それは機械的な程の観察の眼で、私はその冷たさにドキドキした。
「いいよ」と、やがて狐塚が言った。
「君、すごく綺麗だから書きがいがありそう。そこに座って。でも、鉛筆でラフに似顔絵書くだけだから、雑だけどね」
美術室の一階から、また、小うるさい金属音みたいな渋谷先生のバイオリンが聴こえ始めた。
それにつられて、さっきまで慣れて忘れていたはずの油絵の具の匂いが強く匂った。
「あの人、本当バイオリン下手だからなぁ。俺、これから二週間、毎日あれ聴かされ続けるのかな」と言って、狐塚は微かに笑った。
少し意地悪そうに、薄い唇を歪めて。
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