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父に真夫を引き取られた。
そのときの私じゃ、とても子供を育てられる精神状態じゃなかったから。
それでも。
自分から手放したくせに、真夫がいないのが辛くて辛くて、辛くて。
何にも掴まれなくなった右手が、酷く冷たくて。
毎日のように、馬鹿な私は泣いてばかりいた。
父に真夫の声を聞かせてくださいと電話しても、決してそれを受け入れてはくれなかった。
美代子、お前には真夫の声を聞く資格すらないとわしは思う。
お前のやったことは、それほどまでに罪なことなんだ。
二度とお前にあの子は渡さない。
真夫に会えないことこそが、自分の罰だと思いなさい。
どんなにお父さんお願い、と受話器越しに泣きついても父は拒否し続けた。
その拒否する父の声もまた、堪えるように震えていた。
━━━━━━死のう。
何度もそう思った。
ああ、真夫。ごめんね真夫。
あなたに全ての凶を押し付けて、全部あなたのせいにして、あなたに愛をあげられなくて、私は一人あなたを置いて逃げた。
愛してる。
心から愛してる。
死ぬまであなたは私の息子よ。
でも、あなたがそのことに嫌悪を抱くなら。
私に死んで欲しいと望むなら。
喜んで、電気コードなり何なり天井板の梁に引っ掛けて、首を吊るわ。
それくらいしか、今の私にはしてあげられないから。
自殺未遂を幾度となく犯した。
けれど、その度に死ねなかった。
死ぬのって、案外難しいんだ。
ぼんやりとした頭でそんなことを考えた。
そんな私を叱ってくれたのが、今の夫の賢一さんだった。
高校の部活の先輩で、成績優秀で、生徒会長なんかも務めていた人だった。
賢一さんの実家と私の住んでいたアパートが近所だったらしく、ボロボロな私を見かける度に何かと面倒を見てくれた。
全てを話した。
その上で、殺してくれないかと頼んだ。
すると、本気で怒鳴られた。
いつも優しくて、ニコニコしていた、あの先輩が。
こんなに怒るところを見たことがなかった。
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