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「なら、もう俺のこと避けないよな?」
「別に避けてないし」
「嘘つき」
そう言ったヒロミの手が私の頬に伸びる。
それに思わずビクっと震えたのをヒロミは見逃さなかった。
口元に笑みを浮かべたヒロミが『ほら、やっぱりキスのこと気にしてたから避けてたんだろ』って言っている気がする。
私は悔しさに歪めた顔をメニューで隠した。
「そんなことよりおなかすいた。ヒロミおごってよ」
「いいよ。イツキになら何でもおごる」
ヒロミがニコニコと笑顔を浮かべて私を見ながらそう言ったのを、メニューからチラっと顔を出して見た。
ああ、私、何でこんな男につかまってるんだろう。
女が苦手って言ってたのに同調してしまったあの日の私に忠告したい。
この男は女は苦手だけど、女には困っていないとか言いやがる男だと。
その日、私はそんなことを思いながらベランダ以外にいるヒロミと初めて食事をした。
ベランダ以外で初めて見たヒロミ。
現実にちゃんと存在してるんだな、と当たり前のことを思った。
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