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しかし、つい先日、そんな日々に、変化が起こった。
今まさに彼女の手を引き、嬉しそうに「どこに行く?何したい?」とはしゃぐ男・エイジに、ユキミが告白されたのは、つい2か月ほど前のことだった。
曰く、彼は24歳。
料理の専門学校を卒業したものの、なぜかそのあと演劇に興味を持ち、定職に就くこともなく、フリーターとして、小劇団で演劇をしているのだという。
そんな彼とユキミがであったのは、ユキミ行きつけの立ち飲み屋だった。
その日仕事で嫌なことがあったユキミは、店主を相手取ってクダをまいていた。
そこにたまたま居合わせ、店主と同じようにユキミの愚痴に耳を傾けていたのが、エイジだったのだ。
彼は、ユキミに熱燗を注いで。
「いや、でも、ユキミさんはがんばってるっすよ!
そーゆー女性、おれは好きだなぁ。
ねぇ、ユキミさん。よかったらもう一軒、行きませんか」
……なんて、言ったものだから。
つまり、そういうことに、なってしまったのだった。
初対面でのエイジの印象は、ユキミにとって、正直「ダサイ奴」だった。
そのときの彼は、バイトの面接帰りだったらしく黒のスーツを着込み、もっさもさの髪に、高校時代からかけているという銀縁のでかいメガネ。
曰く、外見に特にこだわりはないのだそうだ。
けれど、そのダサさを、ユキミは妙に気に入ってしまったのだった。
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