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エイジという楽しみができてからというものの、ユキミは、仕事に対しても、一層精を出すようになった。
給料日に高級なものをエイジに食べさせること。
それを唯一の楽しみに、サクサクと仕事を片付けていく。
「浅川課長、こちら、頼まれていたものです」
そう言って、ユキミは書類を手渡す。
課長の浅川はそれをパラパラとめくった後、にこりとユキミにほほ笑んだ。
「さすが丸谷。完璧だな」
「ありがとうございます」
「最近いつもに増して頑張ってるな。
なんかいいことでもあったか」
「あはは、まぁ、そこそこに」
課長の浅川は30歳の独身。
そこそこに顔もよく、役職の通り仕事もできるので、同じ課の中でも、特に女性の人気は高い。
そんな浅川に褒められることは悪くない気分だが、それでも、エイジのだめっぷりとは対照的な彼は、ユキミの眼中にはなかった。
「へぇ。まぁ、その調子でがんばれよ。
最近ますます丸谷ががんばってるって、上にもよく言っておくよ」
「はい、ありがとうございます」
仕事で認められるのは、やっぱり嬉しい。
次の人事考課が楽しみだと思いながら、今日の帰りは、プリンを買って帰ることに決めた。
つい鼻歌を歌いながら給湯室に入ると、猫背の男と鉢合わせた。
鼻歌なんて歌っていた恥ずかしさから、思わず視線をそらす。
すると、男が口を開いた。
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