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「あの、丸谷さん、ですよね」
「は、はい」
ふいに名前を呼ばれたので、思わず顔を上げざるを得なくなる。
「ぼく、第一営業部の高崎です。どうも」
「……どうも」
あれ、第一営業部ってたしか隣の棟になかったっけ、どうしてウチの給湯室に。
そんなことを思いながら、ユキミはコップを手に取った。
「あのぉ」
「……はい?」
ふいに声をかけられ、思わずびくっとする。
不思議なテンポで喋る高崎という男は、丸い鼻がやけに印象的な男だった。
「あのぉ、ついこの前、街中であなたを拝見しまして。ああいう男が好みなんですか」
「はっ……」
思わず息が詰まる。
なんでお前が。なんで私を。なんでそんなことを。
色々ななんでが浮かんでは消え、残ったのは、気持ち悪いという思いだけだった。
「なんで高崎さんにそんなことを言われなくてはいけないんですか」
つい言葉がトゲトゲしくなってしまう。
その様子に、高崎は慌てだした。
「嫌な気分にさせてしまったらすみません。
ただ、ぼくはずっと、あなたのこと、いいなって思ってたんで」
背筋が凍る。
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